役員退職金はいくらまで?功績倍率法・損金算入・分掌変更を税理士が解説【2026年版】

「そろそろ引退を考えている。会社から自分に役員退職金をいくら出せるのか」「息子に社長を譲るが、自分は会長として残る。この場合も退職金を出して損金にできるのか」——事業承継や引退を控えたオーナー経営者から、税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、こうしたご相談が数多く寄せられます。役員退職金は、会社の損金(税務上の経費)になり、受け取る本人の税金も優遇される、オーナー経営者にとって最後にして最大の節税の場面です。 一方で、金額が過大だと「不相当に高額」として損金を否認され、多額の追徴を受けるリスクもあります。本記事では、役員退職金の適正額の考え方(功績倍率法)損金に算入できる時期、そして引退せず役職を変えるだけの分掌変更で退職金を出せるのかまでを、法人税法の条文と国税庁の取扱いに基づいて網羅的に解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 役員退職金の3つのメリット(3行サマリー)
  2. 2. 役員退職金はいくらまで?──「不相当に高額」の壁と功績倍率法
  3. 3. 役員退職金を損金に算入できる時期(No.5208)
  4. 4. 引退せず役職を変える「分掌変更」でも退職金を出せるか
  5. 5. 役員退職金にかかる個人の税金(退職所得)
  6. 7. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 役員退職金の3つのメリット(3行サマリー)

  • 会社側:損金になる——適正額であれば、役員退職金は会社の損金に算入され、その期の課税所得を大きく圧縮します。利益の出ている会社ほど法人税等の節税効果が大きくなります。
  • 個人側:税金が優遇される——受け取った役員退職金は「退職所得」として、給与や賞与とは分離して課税されます。勤続年数に応じた退職所得控除を差し引き、さらに残りを2分の1にしてから課税するため、同じ金額を役員報酬で受け取るより手取りが大きく残ります(国税庁No.1420)。
  • 承継対策:株価が下がる——多額の退職金の支給で会社の純資産が減るため、自社株(非上場株式)の評価額が下がるタイミングが生まれ、後継者への株式の贈与・譲渡を有利に進めやすくなります。事業承継と一体で設計できるのが役員退職金の強みです。
💡 役員退職金は「会社の損金」と「個人の優遇された手取り」を同時に実現できる、ほかにない仕組みです。だからこそ税務署も適正額かどうかを厳しく見ます。出せばよいのではなく、否認されない金額と手続きで出すことが決定的に重要です。

2. 役員退職金はいくらまで?──「不相当に高額」の壁と功績倍率法

役員退職金には、法律上の上限金額は定められていません。しかし、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません(法人税法第34条第2項、法人税法施行令第70条第2号)。「不相当に高額」かどうかは、その役員の業務従事期間・退職の事情・同業類似法人の支給状況などを総合的に勘案して判断されます。

この適正額を見積もるとき、実務で最も広く使われているのが「功績倍率法」です。

💡 功績倍率法の計算式
役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
例:最終報酬月額100万円 × 在任年数25年 × 功績倍率3.0 = 7,500万円
  • 最終報酬月額:退職直前の役員報酬の月額です。その役員の在任中の功績を反映した金額とされ、計算の基礎になります。
  • 役員在任年数:役員として在任していた年数です(使用人であった期間は原則含めません)。
  • 功績倍率:役職に応じた倍率で、社長で3.0倍程度が一つの目安とされます(専務2.5倍、常務2.3倍、平取締役2.0倍などが実務で用いられます)。ただしこれは法令で定められた数値ではなく、過去の裁判例や同業類似法人の実態から導かれた実務上の目安にすぎません。会社の規模・業績・貢献度に照らして合理的に説明できることが前提です。
💡 功績倍率法は「使える便利な公式」ですが、最終報酬月額が極端に低い(あるいはゼロの)場合には機能しません。引退間際に報酬を大きく下げていると、功績倍率法では退職金が不当に小さく計算されてしまうためです。このような場合は、同業類似法人の1年あたりの退職金額から算定する「1年当たり平均額法」など、別の方法で適正額を検討します。最終報酬月額を退職直前だけ引き上げるのは、逆に「退職金を大きくするための操作」とみなされるリスクがあるため避けるべきです。

3. 役員退職金を損金に算入できる時期(No.5208)

役員退職金は「いつの事業年度の損金になるか」も重要です。国税庁No.5208「役員の退職金の損金算入時期」によれば、次のとおりです。

区分損金算入の時期
原則株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度
例外法人が退職金を実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その支払った事業年度

つまり、株主総会で退職金額を確定させた期に損金にするのが原則で、実際に支払った期に損金経理する方法も認められます。どちらで計上するかは、会社の利益状況や資金繰りに合わせて選べます。

💡 注意したいのが未払計上の制限です。取締役会で内定しただけの金額を、株主総会の決議前に損金経理により未払金に計上しても、その時点では損金に算入できません(No.5208)。損金にするには、株主総会等での正式な決議による確定が必要です。決議の内容は必ず議事録に残してください。金額・支給時期・計算根拠(功績倍率法の内訳など)を明記した議事録と、役員退職慰労金規程の整備が、税務調査での説明力を大きく左右します。

4. 引退せず役職を変える「分掌変更」でも退職金を出せるか

「社長を退いて会長になる」「代表取締役から非常勤の取締役になる」——完全に引退するわけではなく、役職や職務内容を変えるケースでも、一定の要件を満たせば、役員退職金を退職給与として損金に算入できます。これを「分掌変更等の場合の退職給与」といいます(法人税基本通達9-2-32)。

ポイントは、形式的に役職が変わっただけでは足りず、実質的に「退職したのと同じ」といえる事情があることです。通達では、次のような場合が例示されています。

  • 常勤役員が非常勤役員になったこと(実質的に経営の主要な地位を占めていると認められる場合を除く)
  • 取締役が監査役になったこと(実質的にみて経営上主要な地位を占めていると認められる場合等を除く)
  • 分掌変更後の役員の給与が、おおむね50%以上減少したこと(分掌変更後もその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる場合を除く)

これらに当たり、実質的にその役員の地位・職務が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることが要件です。

❌ 分掌変更でやってしまいがちな失敗
  • 代表を退いたが、その後も実質的に会社の経営を主導している(=退職の事実がないとして否認)
  • 役員報酬を50%以上下げていない、あるいは下げた直後に元へ戻している
  • 退職金を未払金に計上したまま長期間支払わない(分掌変更の退職金は、原則として実際に支払ったものが対象)
  • 株主総会の決議や議事録がなく、支給額の根拠を示せない
⭕ 分掌変更で退職金を損金にする王道
  • 代表権を返上し、経営の主要な意思決定から実際に退く(名実ともに地位を激変させる)
  • 役員報酬をおおむね50%以上、恒常的に減額する
  • 退職金は原則として実際に支払う(資金繰り上分割する場合も、あらかじめ合理的な支払計画を定める)
  • 株主総会で決議し、議事録・退職慰労金規程・計算根拠を整えておく
💡 分掌変更は、事業承継の入り口として非常によく使われますが、税務調査で「本当に退職の実態があるか」を最も厳しく見られる論点でもあります。「肩書だけ会長に変えて、実権は握ったまま」では、退職給与として認められません。実質的に経営から退くことが大前提です。

5. 役員退職金にかかる個人の税金(退職所得)

会社から支給された役員退職金は、受け取る本人の側では「退職所得」として課税されます(国税庁No.1420)。退職所得は次の順で計算し、給与・賞与よりも大幅に軽い税負担で済むのが特徴です。

💡 退職所得の計算
(退職金の額 − 退職所得控除額)× 2分の1 = 課税退職所得金額
退職所得控除額:勤続20年以下=40万円 × 勤続年数(最低80万円)/勤続20年超=800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば在任25年の役員なら、退職所得控除額は 800万円 + 70万円 ×(25 − 20)=1,150万円。退職金がこの範囲内なら課税所得はゼロ、超えた部分も2分の1にしてから課税されるため、役員報酬で同額を受け取るより手取りが大きく残ります。

💡 ただし役員には注意点があります。役員としての勤続年数が5年以下の人(特定役員)が受け取る退職金は、上記の「2分の1」の優遇が使えません(特定役員退職手当等)。短期間だけ役員に就いて退職金で受け取る、といった形は優遇の対象外です。また「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出しないと、退職金の額に一律20.42%の源泉徴収がされ、確定申告での精算が必要になります。支給前に必ず提出を受けてください。

よくある質問(FAQ)

役員退職金はいくらまで損金にできますか?

法律上の上限額はありませんが、「不相当に高額」な部分は損金になりません(法人税法第34条第2項)。実務では功績倍率法(最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率)で適正額を見積もります。社長の功績倍率は3.0倍程度が一つの目安ですが、法令上の数値ではなく、会社の規模・業績・貢献度に照らして合理的に説明できることが前提です。

最終報酬月額が低い(またはゼロの)場合はどう計算しますか?

功績倍率法は最終報酬月額を基礎にするため、引退間際に報酬を大きく下げていると退職金が過小に計算されます。この場合は、同業類似法人の1年あたりの退職金額から算定する「1年当たり平均額法」など別の方法を検討します。退職金を大きくする目的で直前に報酬を引き上げるのは、否認リスクがあるため避けてください。

退職金はいつの事業年度の経費になりますか?

原則は株主総会などで金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。例外として、実際に支払った事業年度に損金経理をすれば、その期の損金にもできます(No.5208)。取締役会で内定しただけの未払計上は、決議による確定前は損金にできません。

会長として残るなど、完全に引退しなくても退職金を出せますか?

分掌変更(例:常勤から非常勤へ、代表取締役から監査役へ、報酬がおおむね50%以上減少)により、実質的に退職したのと同様の事情があると認められれば、退職給与として損金にできます(法人税基本通達9-2-32)。ただし肩書だけ変えて実権を握ったままでは認められません。実質的に経営から退くことが要件です。

役員退職金は事業承継に役立ちますか?

役立ちます。多額の退職金の支給で会社の純資産が減り、自社株(非上場株式)の評価額が下がるタイミングが生まれるため、後継者への株式の贈与・譲渡を有利に進めやすくなります。退職金の支給と自社株対策・事業承継を一体で設計するのが効果的です。

7. まとめ

役員退職金は、会社の損金と個人の優遇された手取りを同時に実現でき、事業承継とも一体で使える、オーナー経営者にとって最も重要な節税の場面です。要点は次のとおりです。

  • 役員退職金は適正額なら会社の損金になり、個人側は退職所得として優遇される(退職所得控除+2分の1課税・No.1420)。
  • 上限額の定めはないが、不相当に高額な部分は損金不算入(法人税法第34条第2項・施行令第70条)。適正額は功績倍率法(最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率)で見積もる。社長3.0倍は法定ではなく実務上の目安。
  • 損金算入の時期は原則株主総会の決議で確定した期、例外として実際に支払った期に損金経理(No.5208)。議事録・退職慰労金規程が説明力の要。
  • 完全引退でなくても、分掌変更(実質的に退職と同様の事情・報酬おおむね50%以上減など)で退職給与にできる(法人税基本通達9-2-32)。ただし実権を握ったままは不可。
  • 役員在任5年以下は2分の1課税が使えない。「退職所得の受給に関する申告書」の提出も忘れずに。

「自分の役員退職金をいくらまで出せるか試算したい」「分掌変更で退職金を出しても否認されないか不安」「退職金と自社株対策・事業承継を一体で設計したい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、適正額の算定から議事録・規程の整備、損金算入時期の設計、自社株評価・事業承継との一体設計まで伴走します。引退・承継をお考えの経営者の方は、支給を決める前にお早めにご相談ください。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、役員退職金に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。適正額・損金算入の可否・分掌変更の該当性は、会社の規模・業績・退職の実態等の事実関係により異なり、税率・関係する制度の要件等は改正により変わることがあります。功績倍率は法令上の数値ではなく実務上の目安です。実際の支給・決算・申告の判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月6日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。