税制適格ストックオプションとは?非適格との課税の違いと令和6年改正・要件を税理士が解説【2026年版】
- 1. ストックオプションとは(3行サマリー)
- 2. 最大の分かれ道――「税制適格」か「税制非適格」か
- 3. 税制適格ストックオプションの主な要件(措置法第29条の2)
- 4. 令和6年度(2024年度)税制改正のポイント
- 5. 実務でどう活かすか――失敗と王道
- 7. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. ストックオプションとは(3行サマリー)
- ストックオプションとは、会社が役員や従業員などに付与する、あらかじめ決めた価格(権利行使価額)で自社株を買うことができる権利(新株予約権)です。株価が上がってから権利を行使すれば、値上がり分が利益になります。
- 大きく分けて、税制上有利な税制適格ストックオプション、それ以外の税制非適格ストックオプション、権利取得時に対価を払う有償ストックオプションの3類型があります。本記事の主役は、要件を満たすことで課税が優遇される税制適格ストックオプションです。
- 税制適格ストックオプションは、租税特別措置法第29条の2に定める複数の要件をすべて満たす必要があります。要件を一つでも外すと非適格となり、課税のタイミングと税率がまったく変わります。
ひとことで言えば、ストックオプションは「将来、決めた値段で自社株を買える権利」であり、その課税の有利・不利を決めるのが「適格か非適格か」です。
2. 最大の分かれ道――「税制適格」か「税制非適格」か
ストックオプションで最も重要なのが、課税されるタイミングと税率です。適格と非適格では、次のように扱いがまったく異なります(国税庁No.1540・No.1543)。
| 比較項目 | 税制適格ストックオプション | 税制非適格ストックオプション |
|---|---|---|
| 権利行使時(株を買ったとき)の課税 | 課税なし(繰り延べ) | 給与所得等として課税(行使時の時価−権利行使価額) |
| 株式譲渡時(株を売ったとき)の課税 | 譲渡所得(売却価額−権利行使価額) | 譲渡所得(売却価額−行使時の時価) |
| 税率(譲渡益部分) | 申告分離課税 20.315% | 申告分離課税 20.315% |
| 税率(給与課税部分) | なし | 総合課税(最大約55%) |
| 課税されるタイミング | 売却時の1回だけ | 行使時と売却時の2回 |
税制非適格では、株を売って現金を手にする前の「権利を行使した時点」で、まだ現金が入っていないのに給与所得として最大約55%(所得税・住民税合計)の課税が起こります。一方、税制適格なら権利行使時は課税されず、実際に株を売って現金化したときに、値上がり益全体に対して申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)がかかるだけです。
3. 税制適格ストックオプションの主な要件(措置法第29条の2)
税制適格になるには、次の要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると非適格になります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 付与対象者 | 発行会社およびその子会社(50%超保有)の取締役・執行役・使用人(および相続人)。ただし大口株主とその特別関係者は対象外(未上場は発行済株式の3分の1超、上場は10分の1超を保有する株主)。一定の社外高度人材も対象に含まれます。 |
| ② 無償で発行されること | 金銭の払込みをさせずに(無償で)新株予約権を付与すること。 |
| ③ 権利行使期間 | 付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで(設立5年未満の非上場会社は15年を経過する日まで)。 |
| ④ 権利行使価額 | 契約締結時(付与時)の1株当たりの時価以上であること。時価より低い価額に設定すると非適格になります。 |
| ⑤ 権利行使価額の年間限度額 | 権利行使価額の年間合計額が一定額以下であること(下表・令和6年度改正で引上げ)。 |
| ⑥ 譲渡制限 | 新株予約権を他人に譲渡してはならないこと。 |
| ⑦ 株式の交付・保管 | 会社法に沿って株式が交付され、証券会社等への保管の委託等がされること(令和6年度改正で発行会社自身による管理も可能に)。 |
4. 令和6年度(2024年度)税制改正のポイント
令和6年度税制改正では、スタートアップの人材獲得力の向上を目的に、税制適格ストックオプションの要件が大きく緩和されました。施行日は令和6年4月1日で、令和6年分以後の所得税について適用されます。改正の柱は3つです。
① 年間の権利行使価額の限度額の引上げ
従来は会社の設立年数にかかわらず一律1,200万円でしたが、次のように引き上げられました。
| 発行会社の区分 | 権利行使価額の年間限度額 |
|---|---|
| 一般(下記以外) | 1,200万円 |
| 設立5年未満の株式会社 | 2,400万円 |
| 設立5年以上20年未満で、非上場会社、または上場後5年未満の上場会社 | 3,600万円 |
② 発行会社自身による株式管理スキームの創設
従来、税制適格の要件を満たすには、権利行使で取得した株式を証券会社等へ保管委託する必要があり、非上場のスタートアップには実務上の負担でした。改正により、発行会社自身が株式を管理する方法でも要件を満たせるようになり、非上場段階でのストックオプション活用がしやすくなりました。
③ 社外高度人材の範囲の拡大
税制適格の対象となる社外高度人材(外部の専門家等)の範囲が拡大され、認定を受けた計画に基づく付与の対象が広がりました。
5. 実務でどう活かすか――失敗と王道
税制適格の要件は細かく、実務では次のようなつまずきが起こりがちです。
- 権利行使価額を付与時の時価より低く設定してしまい、全体が非適格になって行使時に給与課税が発生
- 年間の権利行使価額が限度額(1,200万円等)を超過し、超えた部分が非適格扱いになる
- 創業者など大口株主本人に付与してしまい、そのままでは税制適格の対象にならない
- 権利行使価額の設計のために取得した信託型ストックオプションを「株式譲渡課税で済む」と誤解(国税庁は令和5年に給与課税である旨を明確化)
- 付与決議から2年以内に行使してしまい、税制適格の権利行使期間の要件を外す
- 付与時に適正な株価を評価し、権利行使価額を時価以上に正しく設定する
- 付与対象者・付与株数を設計する段階で、大口株主の除外・年間限度額を織り込む
- 令和6年度改正の限度額引上げ・発行会社管理スキームを前提に、上場スケジュールと合わせて制度設計する
- 信託型を検討する場合は、給与課税の取扱いを前提に、税制適格SOや通常の非適格SOと比較して選ぶ
- 発行要項・割当契約・株主総会決議を、措置法第29条の2の各要件に沿って整える
——「上場を見据えて幹部にストックオプションを出したいが、税金で損をさせたくない」というご相談は、弊社にも実際によく寄せられます。一般論として申し上げると、成否を分けるのは付与前の設計です。権利行使価額の基礎になる株価の評価、大口株主の除外、年間限度額の管理、そして令和6年度改正で緩和された要件をどう使うか——これらを付与を決める前に固めておけるかで、受け取る側の手取りが大きく変わります。私たちが関与する場面でも、発行してしまった後から適格・非適格を直すことはできないため、設計段階からのご相談をおすすめしています。
よくある質問(FAQ)
税制適格と非適格で、税金はどれくらい変わりますか?
権利行使価額はいくらに設定すればよいですか?
令和6年度改正で何が変わりましたか?
創業社長本人にストックオプションを出せますか?
信託型ストックオプションは税制適格ですか?
7. まとめ
税制適格ストックオプションは、役員・従業員へのインセンティブを税負担を抑えて届けられる、スタートアップ・成長企業にとって重要な制度です。要点は次のとおりです。
- 最大の分かれ道は税制適格か非適格か。適格なら売却時に20.315%の課税のみ、非適格は行使時に給与課税(最大約55%)+売却時に譲渡課税。
- 税制適格には、付与対象者・無償発行・権利行使期間(2〜10年、設立5年未満の非上場は15年)・権利行使価額(時価以上)・年間限度額・譲渡制限・株式の保管などの要件をすべて満たす必要がある(措置法第29条の2)。
- 令和6年度改正で、年間限度額が設立5年未満2,400万円・設立5年以上20年未満で非上場等3,600万円に引上げ、発行会社自身による株式管理が可能に、社外高度人材の範囲も拡大。施行日は令和6年4月1日。
- 発行後に適格・非適格は直せない。付与前の設計(株価評価・大口株主の除外・限度額管理)が成否を分ける。
「上場を見据えてストックオプションを設計したい」「税制適格の要件を満たしているか確認したい」「信託型を導入済みだが課税関係が不安だ」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、ストックオプションの設計から株価評価、税制適格要件の確認、上場・資本政策との整合まで一体でご支援しています。発行を決める前の段階で、お気軽にご相談ください。
出典・参考資料
- 租税特別措置法 第29条の2(特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)
- 国税庁タックスアンサー No.1540(ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合)
- 国税庁タックスアンサー No.1543(税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について)
- 国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和6年11月改訂)
- 経済産業省「ストックオプション税制」(令和6年度税制改正の内容)
本記事は、税制適格ストックオプションに関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。令和6年度税制改正の内容は令和6年4月1日施行・令和6年分以後の所得税に適用されます。要件・限度額・税率は改正により変わることがあります。信託型ストックオプションを含め、実際の設計・課税判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月14日
ストックオプションの設計・自社株の資本政策は KMP へ
公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、ストックオプションの設計から株価評価、税制適格要件の確認、上場・資本政策との整合、信託型の課税関係の点検まで一体でご支援します。発行後は適格・非適格を直せないため、付与を決める前のお早めの段階でご相談ください。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
